あなたと彼女は車内に戻り、これから数十分の無駄な時間を過ごさねばなりませんでした。
あなたは苛立ちかピークとなっていますが、もちろん彼女になんら非はなく、むしろあなたの方が迷惑をかけている立場なので、表に出すこともできないのです。
それどころか、時間を潰すための会話などはあなたから切り出す必要があるのでは、とあれこれ考えているのでしょう。

「……あの、藍川さん、本当にすみません」

あなたは仕方なく、もう一度謝罪から切り出しました。
梶村さんに対する態度とは違いしおらしくなったあなたに、彼女は目をぱちくりとさせています。

「え?私は、全然……」

「これでは結果的に、電車で帰ったほうが早かったかもしれません。多分、警察が来てからも時間かかります」

「え〜、私、オープンカーで帰宅するほうが断然良いですよ。どんなに時間かかっても、私は絶対オープンカーで高速道路乗るんですから。碓氷さんこそ、諦めて私のこと電車で帰したりしないで下さいね」

彼女は笑ってそんなことを言いました。彼女が言ったことは、大変厚かましいことだったように思います。こんなことを言われたら、いつものあなたなら眉を寄せていたに違いありません。
しかし、それは時と場合によるのだと、あなたは驚いたでしょう。今は彼女のワガママに、眉間の皺がスッと消えていったのです。あなた自身、その感覚は初めてだったはず。彼女のことを見つめたまま、しばらく呆気にとられていました。