「……ああ、大丈夫ですね。こちらでも保険会社の連絡先控えますから。電話はもちろんそちらがかけて下さい」

「はい……あの、今ですか？」

「ええ、別に今でも。……まあ警察が先でいいですが」

あなたは連絡先を手帳に控えると、ついでにその下に梶村さんの連絡先も書かせました。手帳のメモのページを一枚破き、そこにあなたの携帯電話の番号を書いて、保険証券とともに封筒に入れて返します。

ここまで五分の出来事でしたが、あなたはここでもうやることが尽きたのです。これ以上立ち話をしていても苛立ちが増長していくだけなので、彼女に「車へ戻って待ちましょうか」と声をかけました。
彼女は苦笑いで、「そうですね」と返します。

戻る前に、彼女は梶村さんを振り返りました。

「あの、私は藍川といいます。あちらは碓氷さん。何かあればまた声をかけて下さい」

彼女は笑顔でした。梶村さんはそれにホッとしたように、泣いたまま「はい」と答え、車に戻っていったのです。