あなたは怒りの混じったため息をつきながらオープンカーへと戻ってくると、何やら彼女が車から出て、車体に携帯電話をかざしていました。

「どうかしましたか」

「あ、車動かす前に撮っておかないとと思って。碓氷さんはちゃんと白線で停まってるので、全然悪くないって証拠です」

「……ああ、まあ、そうですね。ありがとうございます」

「こんな感じです。……後ろへこんじゃってますね」

彼女はあなたのそばに寄り、携帯電話の画面を見せました。本当はバックミラーの裏にドライブレコーダーを取り付けてあるので記録は十分にできているのですが、あなたはそれを黙って、彼女の携帯を覗き込みます。
彼女の手元の写真ごしにも、目の前の実物でも、バンパーがしっかり歪んでいるのが分かり、あなたはまた大きくため息をつきました。

車内に戻り、軽自動車のすぐ前までバックで寄せます。
女性はすでに軽自動車の横に立ち、肩をすぼめて待っていました。

「先に警察を呼びますから、携帯とか、免許証とか、出しといて下さい」

あなたはまだ車内に座ったまま、女性にそう言いました。
“警察”という言葉とあなたの冷たい態度にすっかり怯えきった女性のことを、彼女は心配しているようでしたが、あなたの車が被害を受けてへこんでいるので「大丈夫ですよ」などとはもう軽々しく言えないようでした。

「藍川さん、地図アプリ入ってますか」

「はい。入ってますよ」

彼女は画面をタップし、素早くアプリを出します。

「ここの住所調べてもらえますか」

「分かりました」

彼女が順調に調べているので、あなたは住所を待たずに電話をかけ始めました。