あなたは自分の話をしただけですが、それは彼女や、彼女の父親への嫌みになっていることに違いありませんでした。
それに気づいたあなたは、そこで話を切り上げ、かわりに「藍川さんは?」と尋ねます。それに対し、彼女は「私?」と首を傾げました。

「ご職業は」

「あ、私は医療関係です」

「医療関係。看護師ですか?」

「いいえ。レントゲン技師っていうのやってるんです」

「あー、すごいですね」

あなたは初めて、“すごい”という言葉はあまりに軽い気持ちで出てしまうのだと知り、思わず口を押さえました。

「ふふ、何もすごいことはないですよ。資格さえ取れば、今は需要があるんです。乳癌の検査に来る方なんかは特に、技師が女性だと安心するみたいですから」

「へえ。医療系こそ、人が足りなくて忙しいんじゃないですか」

あなたは仕事柄どの業界についてもそれなりの知識を持っていますが、医療系のプロジェクトに携わったことはなかったのです。
女性に自分の知らないことを聞くことへの恥と、知らない業界への興味、ふたつを天秤にかけた曖昧な質問を続けました。

「技師はそんなことはないんです。土曜日は午前中出なきゃならないんですけど、他は時間どおりです。検査が多い病院は大変かもしれませんが、私のところはそんなに大きくないですし。……あ、知ってますか?白木山病院っていうんですけど」

「……知ってます」

あなたは眉を寄せました。その病院へは行ったこともあるはずです。もうそこへは二度と行かない、頑固なあなたは、そう思ったでしょう。