海沿いから少し内側の道に入ると、何台か車とすれ違うようになりました。
近くに小さな漁港があり、関係者で賑わっています。

「あ、この辺、魚の匂いがしますね」

あなたはオープンカーの不満を言われたのかと思い横目に彼女を見ましたが、彼女は目を細めて笑っていました。この車に窓がないのをいいことに、彼女は少し身を乗り出して、漁の様子を眺めています。

「こんなに朝早くから休日関係なく働かなきゃならないんですから、漁港の人たちは大変ですね」

「……そうですね」

彼女がそんなことを言ったので、あなたは初めて、そういう気持ちでこの漁港を眺めました。

「碓氷さんは、今日はお仕事お休みなんですよね。土日休みなんですか?」

「まあ……基本的にはそうなってますが、不規則です。クライアント次第なので」

「え?何のお仕事されてるんです?」

「コンサルタントです」

「コンサルタント!?すごーい!」

彼女があまりに世俗的な反応したので、あなたは黙りこみました。そんな言葉は聞き飽きているのです。

「何もすごいことはないですよ」

「いえ、すごい偶然だなと思って。私の父も昔コンサルタントだったんですよ。転職して、今はそこも退職してますけど。もう昔は全然家に帰ってこなくて、仕事ばっかりっていつも母に怒られてました」

彼女はクスクスと笑ってそう言いました。あなたはその返しは予想していませんでした。

あなたがもし結婚して家庭を持っても、彼女の父親と同じことになるのでしょう。仕事ばかりで奥様に文句を言われる姿が容易に思い浮かびます。

「コンサルタントやってて家庭が持てるっていうのは、今の俺には想像つかないですね」

「やっぱり、どこも忙しいんですか?」

「クライアントと自分次第ですね。今は世間的に、タイムマネジメントも仕事のうちだという方針ですから、昔のように深夜まで働いたりはしませんが。プロジェクトが詰まれば休みはありませんし、家庭では理解されないでしょう。何なら俺も、家でもずっと仕事してますから」