彼女は頷き、そこでまた会話は途切れました。
それから五分ほど走ったところで、彼女はもう一度あなたに声を掛けました。

「碓氷さん、あの」

「はい」

「すみません。先に見えている自動販売機で停まってもらってもいいですか?喉が乾いてしまって……」

彼女が指をさした先には、左側に車を寄せるスペースがあり、そこには三台の自動販売機が向かい合って立っています。

「ああ、すみません、気づきませんでした。寄りましょうか。それか、そろそろATMもあるコンビニがありますので、他に必要なものがあればそちらにも行けますが」

「あ、良いですね。コンビニの方に寄りたいです」

「わかりました」

「……コンビニで着替えたら怒ります?」

「は?」

あなたはハンドルに右手を乗せたまま、不可思議なことを言う助手席の彼女を見ました。彼女はこれから怒られる子どものように肩をすぼめています。
女性が子どもっぽく振る舞うことに対しては全くそそらないあなたは、眉を寄せました。

「……着替えはあるんですか」

「はい。一応、海に入るかもしれないと思って、ジャージを持ってきてるんです……。でも、着替える場所がなくて……」

「まあ、いいですけど……」

あなたは何人かの女性と細切れな付き合いをしてきましたが、自分の前でジャージになる女性など見たことがないでしょう。
週に二回通っている会員制のフィットネス・ジムでも、そこの女性たちが着ているのは“ジャージ”ではなく洗練された“スポーツウェア”のはずです。

そもそも、あなたと一晩一緒にいるとしても、女性たちはジャージ姿になって気を抜くことなどなかったのでしょうから、彼女にこれからジャージ姿になると宣言されて、あなたは正直“引いている”のです。