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秋になりかけた季節、早朝は冷たい風が吹くようになりました。彼女は疲れきって寒さを感じていないようですが、あなたは一応、声をかけました。

「寒ければ、座席の裏にブランケットが入っているので出せますが、大丈夫ですか」

「ありがとうございます。大丈夫です」

彼女が断ってくれて、ホッとしたでしょう。貸せば膝掛けが砂だらけになります。

彼女の荷物は、コンパクトなボストンバッグと、小さなハンドバッグで、どちらもシートの上には置かず、土足の足元に並べていました。

「携帯の機種、なんですか」

あなたの質問は突然でした。

「機種、ですか……?なんだっけ……なんとかセブン……」

「グローブボックス開けてもらえますか。鍵穴はついていますが、鍵は閉まっていないので」

次にあなたは、彼女に収納の取っ手を引くよう目線で示します。すると彼女は「はい」と返事をして、素直にそこを開けました。

そこには黒い革のカバーに入った車検証やサングラス、カーナビの説明書などが綺麗なパズルのように収納されています。

「そこに赤い充電器とアダプターが入っていますから、ソケットに差して使ってください」

ジッパーのついた小袋に入ったそれらを彼女はすぐに発見しました。小さい機材に戸惑う様子はなく、使い勝手も分かっているようです。

「すみません……使わせていただきます」

彼女は器用に一度でソケットに差し込み、ハンドバッグから携帯電話を取り出すと、そこへアダプターを繋ぎます。真っ暗だった画面は息を吹き返し、白く光り出しました。