「は?見てない?」



球場入口。
たくさんのファンが群がる中、あたしに気づいて、ファンのなかをかき分けて来てくれた匠。

「かっこよかった?」と聞く匠にバカ正直に「気がついたら抑えてて肝心な場面を見れていない」と告げてしまったあたしに、当然のことながら、眉間には深いシワを作る匠。



「いやちょっと考え……「あー、そっか。そうだよな」



機嫌悪そうな低い声で、あたしの言葉を遮ったあと、ちらっと後ろに目をやる。



「あいつには、彼女いんのに。ほんと、不毛なお前」



そう言い放ち、あたしを置いてバスに向かって歩き出す。



「ちょっと、待ってよ匠」



匠が目をやった方にいたのは、グラウンドの出口で自分の帽子を彼女に被せる柊くんの姿。



「お前が好きなのが柊で、俺の球を受けてた柊のこと見てたってことくらいわかるから。いいよ、別に」



走って追いついたあたしをみて、はぁっとため息をつく。



「いや、あたし別に柊くんのことも見てないよ」


「別にいいって、俺に気なんか遣わなくても」