『わかったわね?匠ちゃんによろしく』



その言葉を最後に電話は切れた。


「ま、よろしくな。夏実」



耳からスマホを離したあたしに近づいてきて、ポンっと頭を叩く。



「匠だって、こんなの断ればいいのに」


「別に断る理由もない」


「だって、自分の家すぐ下の階でしょ?自分の家で過ごした方が楽じゃん」


「別にどこでもいっしょだよ。それに、お前も六華東いくんだろ?」



あたしの持ってきた袋に入った、制服を指さす。



「……うん」


「柊に会うためにだろ?」


「うん」


「いいのかよ。俺のと同居断ったら、それかなわなくなるんだぞ」



必死に勉強した。
柊くんと匠は野球推薦があるけど、あたしにはない。
それに、区域外からの入試は枠が狭い。

だから、必死に頑張って合格した。
柊くんにまた会いたい、話したい。
ただ、それだけを夢見て。



「いやだ、せっかく柊にまた会えるのに」


「だったら俺と住むことくらいでとやかく言うなよ」


「……うん」



そうだ。
こんなとこで止まってられない。