「おいおい、俺の前で簡単にそんなことされたら困るなぁ」



グイッと引っ張られて詩音と離される。



「あ、ごめんなさい.......」



おじさんの顔がなんだか怖くて、直視できない。



「はは、うそうそ。まぁ、でも大切にして欲しいんだよ」


「はい、大切にします」



──ピーンポーン



「お、来たかな」



おじさんがインターホンへと向かう。



「いいよ、入っておいで」



エントランスのドアのロックを解除するボタンを押す。



「俺が先に話しておいたから、大丈夫だと思う。お母さんもいまはちゃんとわかってるから」



おじさんの口から「お母さん」という言葉が出て、詩音の顔が強ばる。



「大丈夫だよ、詩音。俺がいるから」



おじさんがさっき言ってたことと、自分の戻りつつある記憶。
そのどちらをとっても、夏実のことを溺愛していたことは詩音にももう分かっているだろう。



「.......うん」



緊張した面持ちのまま、俺の手をぎゅっと握る。