「え?あ、夏実.......ごめん、すっかり忘れてて」


「忘れて.......」



匠は何気なく言った一言なのだろう。
でも、いまのあたしにはそれが重くのしかかる。



「あたし、来ない方が良かったかな.......?」


「え?」



匠に対して言葉を発しようと彼のほうをみた。
彼の前には、彼に車椅子を支えられている詩音さんが当然ながらいた。



「もう、思わせぶりなことはしないで.......」



もう、耐えられなかったあたしは、その場をダッと駆け出した。


匠のことを好きになればなるほど、自分が惨めになる。
恋ってもっと楽しいものだと思ってたのに、現実には苦しいことばかり。

ホテルにあいにきたのだって、匠が来いっていうから。
なのに、そのあたしを忘れてただなんて。
どれだけ、目の前にいる詩音さんのことが大切なのかはわからないけど。

それでも、友達としてでもいいから、少しくらい大切に扱って欲しかった。

それすら思ってもらえないなんて、どれだけ薄っぺらな関係だったんだろう。