「なあなあ佐藤」
廊下で、教室で、通学路で。
席替えをきっかけに西園寺くんとよく話すようになった。
あたしは、耳が聞こえないから、自分の声が、ちゃんと相手に届くボリュームか、どうか、分からない。
でも、どんなに小さな声でも、西園寺くんは、最後まで聞き取ってくれる。

「そう言えば、佐藤の下の名前ってなんて言うの?」
下の名前?
そう言えば、家族以外で、呼んでくれた人、いたっけ?
「詩 織」
「そっか!いい名前だな!これから、俺もそう呼んでいい?」
西園寺くんが、あたしの名前を?
「いい……の?」
「いいの?って……質問返し!?」
「ご……めん 呼んで いい。呼んで く れる人 初めて」
「そうなの?じゃあ、俺の下の名前も、呼んでくれる?」

西園寺くんの?

「なんだっけ……?」
「嘘だろー!俺、結構呼ばれてるのに!って、聞こえないか。」
うん、聞こえない。

「たくみ。これからはそう呼んで。」
「た くみ」

なんだろ、言った途端、顔が熱くなってくる。
それは、西園寺くんも同じらしくて。

「なんか、想像してたよりやばいかも。」

え?

西園寺は、口元を隠す。


「好きな子に、名前呼ばれるの…… 想像以上にやばい」

最後の言葉は、私に届くはずがなかった……。