「あーもう!ムカつくムカつくムカつく!」
まだ涼しさが残る春の空。
「ちょっとひな!また言ってんの?こんなに気持ちいい日なんだから、少しくらい静かにして」
「だってー」

わたしは凛堂ひな。わたしを注意しながら本を読んでいる隣の女子は神田雫だ。雫は感情の浮き沈みが激しいわたしと正反対で、クールで落ち着いている。ところで、なぜわたしがあんなに怒っているかというと、始まりは1ヶ月前に遡る。


あの日わたしは、普段通りに教室へ向かっていた。その日は高校の入学式から3日目だった。

(あれ?あの先輩、水やりしてる。手伝おうかな)
「先輩ー?水やり手伝いま...うわっ!」
顔に冷たい水がかかってきた。
「な...」
「おい、お前がそんなとこいるからかかっただろうが」
「っは?」
わたしに水をかけてきた男の先輩がわたしのせいだと言ってきた。意味がわからん。
「わたしは先輩を手伝おうとしたんです!」
「余計なお世話」
「だからって水かけたのわたしのせいにするのおかしくないですか」
「しらねぇよ」
「はいはい、わたしが悪かったです!すいませんでした!」
わたしはさっさと立ち去った。わたしは気の強い性格だから先輩だろうとなんだろうと、言われたら言い返してしまう。
「はあ...入学して早々印象悪いかも...」

カラカラ...
教室に入るとすでにクラスの半分以上が席について喋っていた。
「みんな友達出来てていいなぁ」
わたしは雫とクラスが別れてしまったし、知っている人がいなかったので友達と呼べる人がいないのだ。人見知りな訳でもないしコミュニケーションがとれないわけではないのだが。なんだかこういうザワザワしたような雰囲気は苦手だ。
そんなことを思いながら席に座っていると。
「なあなあ!前の中学どこだった?」
いきなり前の席の男子が話しかけてきた。
「えっと、東中学校かな」
「まじで?俺も東だった!」
「えっ、何組だった?」
「2組だった」
「わたし3組だったなぁ」
話しかけてきてくれる人がいてよかった。
「名前教えて?」
「如月 海」
「海くんね。わたしは凛堂 ひな、改めてよろしくね!」
「おう!よろしくな」
実際はこんな喋り方ではないし、打ち解けた人にはもっと明るい感じなのだが、初対面なこともあって少し猫かぶってるとこもあるのかもなぁ...と思いながら残りの時間を過ごしていた。

ガラッ
「さー席に着いてー」
先生が入ってきた。
「今日からこの1年B組を担任する濱口 翠です。よろしくね」
先生の第一印象は優しそう。あまり怒らなそうでほのぼのしている感じだ。
「じゃあまず、簡単に全員の自己紹介をしてもらいましょうか。それでは出席番号1番の方からお願いします」
「うぇっ?俺かよー」
能天気そうに座っていた男子が突然当てられて驚き、ガタガタとイスをならして立ち上がる。その様子にクラスのみんなから笑いが起きた。
「出席番号1番の雨咲 翔です。好きな食べ物は寿司でーす。よろしくー」
パチパチパチパチ...
「では、2番の人」
と、どんどん進んでいきついに私の番になった。こういうのが苦手なタイプではないのだが、やはり知らない人たちの前だと少し緊張する。
「出席番号21番の凛堂 ひなです。音楽を聴くことと本を読むことと写真を撮ることが好きです。この趣味だけ言うと暗い人と思われるかもしれませんが結構元気です。仲良くしてください。」
やばっ、ついいつもの感じで喋っちゃった。ま、いっか。これが素のわたしだし。
そして、最後の30番まですすみ、次は委員会決めなどになった。

「ではこれから、委員会やクラス委員長などを決めてもらいます。」
教室がザワザワとする。
「まず、クラス委員長を決めたいんですが…立候補はありますか?」
みんなが目を合わせる。しかし、誰も手を挙げる人は居ないようだ。
「うーん、居ないようですね...クラス委員長が決まらないとダメなのですが…」
先生が困ったように首を傾げる。
「はい」
その時、特別大きい訳でもないが凛としてよく通る声が聞こえた。
「おや、山越さんやってくれますか?」
山越さんと呼ばれたその女の子は真面目そうな雰囲気で、少し気の強そうな子だった。わたしの後の番号の子なんだろう。わたしの番がおわったあとはあまり聞いていなかった...。
「はい、クラス委員長に立候補します」
大抵、今みたいに立候補したような子は出しゃばりと言われたりとか、目立ちたがり屋と言われたりするが、山越さんのその堂々とした態度にクラスのみんなも尊敬のような眼差しで見ていた。
「じゃあ、クラス委員長は山越さんにお願いします。そしたら早速委員会を決めてもらいたいと思います。」