曲を譜面通りに弾けているのは言うまでもなく。

そうじゃなくて……。

表現が凄いのだ。

春の日差しのように暖かく心地のよい音。

夏のようにパワーが溢れるような元気が充電されていくような音。

秋のようにちょっと切なくなるような哀調を帯びた音。

冬のように濁りのない透明感のある音。

彼はたった一曲にその全てを表現していたのだ。

春の音も夏の音も秋の音も冬の音もどれも優しさに満ちていた。

なのに、画面の向こうでトロフィーを抱えている彼は無表情なのだ。

喜びも緊張も開放感もなくただただ無。