「戻してよかったの?まだ読み途中なんじゃ……」

「いいんだよ。どーせ、来週また来なきゃ行けないし」

「もう! なんで病院行く前提なのよー!」

「……だって、俺ろくな体してないし」

 あたしが抗議すると、奈々絵はそう言って顔を俯かせた。

「奈々……」

「……悪い。今度は俺が気ぃ使わせたな。早く行こう」

 罰が悪そうにあたしから目を背けて、奈々絵は言った。

 奈々絵は小学六年生の時に、自殺未遂をした。

 それ以来、彼はその時の怪我がマシになっても、こうして定期的に病院に通っている。

 医者に、念のため通うように言われているんだそうだ。
 
 さっき言った通り、奈々絵は病院で診察を待ったりしている時間のほとんどを、読書の時間やパソコンを触る時間に充てているみたいだ。


 それ故に奈々絵は英語表記の本も読めるし、PCの操作も得意だ。


 PCに至っては、ハッカーみたいなのもできるらしい。

 でも奈々絵はその有り余る知識を、生かす気がない。

 ここは東京だけど、23区ではない。故に23区の方なら今通っている病院よりもよっぽど設備が整っているし、奈々絵の体だってかなり良くなるはずだ。


 でも彼には、そうする意思がない。