「なんでっ!!なんで俺なんかのこと、姉ちゃんは庇って……っ」

我も失って、俺は叫んだ。
俺の涙が、姉の真っ白い頬にこぼれ落ちた。

「なんかなんて、言わないの。……奈々絵、笑って。……今じゃなくていい。――でも、いつか必ず、笑って生きれるようになって」


瞳からこぼれ落ちる俺の涙を血濡れの手で拭い、姉は穏やかに笑いながらそう言った。


「なんだそれっ!!俺、嫌だよっ!

俺、姉ちゃんがいないと、全然笑えない……っ」


必死で叫びながら、俺は滝のように、とめどなく涙を流していた。

「――ううん、そんなことない。笑えるよ、奈々絵は。……約束して、奈々絵。いつか、笑って生きれるようになるって……」

俺の頬にキスを落として、姉はそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。


「姉ちゃん……?

姉ちゃん、姉ちゃんっ!!!」


叫んでも叫んでも、姉は目を覚まさなかった。


気がついたら、トラックの運転手だった人が救急車を呼んでくれていて、俺は家族と一緒に、救急車に運ばれていた。

そして、後数分で病院に着くというところで、俺の姉は息を引き取った。


「……うっ」

姉が死んだことで堪えるのが限界に達した俺は、病院に着くや否や道端にものを吐いて、倒れるように意識を失った。


――そうして、その日、確かに俺の時間は止まった。