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母さんはある人と再婚するまで、俺に毎日のように虐待をしていた。
‘‘あんたなんか産まなければよかった”
‘‘この欠陥品!!”
母さんがそうヒステリックに叫んでいた姿が、頭によぎった。
隣にいた奈々絵や潤に気づかれないように、俺は声を押し殺して泣いた。
これから旅行なんだから、それを楽しむためにも、今だけは静かに悲しみに浸りたかった。――今だけ泣いて気が晴れれば、旅行が楽しめると思ったから。
俺は虐待が始まった六歳の時から、毎日のように自分が母さんに暴言を吐かれ、暴力を振るわれる夢を見ている。虐待が終わった今でも、それは変わらない。
――たとえ今は虐待をされていなくとも、されていた時のおよそ十年も暴力を受けて、暴言を吐かれ続けた記憶は、しっかりと俺の脳裏に焼き付いている。
俺は一体いつまで、母さんがいるからって生きるのに怯えなきゃならないんだろうか。
……死ぬまでだろうか。
そんな取り留めもない想いを抱きながら、俺は窓から見える景色を眺めていた。