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「……その傷、まだ消えてないんだな」

空我の首筋に触れて、俺は言った。

「……ああ、そりゃあ消えないだろ。仮にお前らのことを忘れることがあったとしても、多分一生消えないよ、この傷だけは。……お前が恵美を捨てた時に背負った傷と同じくらいでかいからな」


そう言って、空我は困ったように笑った。


「……忘れない。忘れさせねぇよ。俺達のことも、その傷も。


……だってそれは、お前がちゃんと今日まで生きて、虐待から抗ってきた証拠なんだから。

……俺達のことだって、何があっても忘れさせない。だって俺達が、お前を虐待から救った張本人なんだから」


――なぁ空我、忘れないで。


主治医が空我の本当の父親だって気づいて、その人にお前が虐待されてることを話したのも、お前に笑えるようになれって言ったのも、全部俺なんだよ?


生きる意味を見つけようって、そう必死に説得したのも。それだけは、絶対に忘れないで。きっと、君が忘れないように、俺は最期にありったけの愛を君に贈るから……。




瞳から静かにこぼれ落ちた涙を無視して、俺は取り繕うように笑った。



本当に大好きだったよ、空我……。


幸せに、なれよ……。