「はぁ……。あっそ、早く帰れば?」



俺は泣きそうなのをこらえながら、呼吸を整えつつ、目を逸らして言った。


「……嫌いになった?あたしのこと」


「……別にそんなんじゃない。そもそも元から好きじゃないし。俺はもうお前に飽きたんだよ。そんだけ」


――頼むから早く。それどころかいっそ、今すぐに俺の目の前から姿を消して。


――化けの皮が剥がれる前に。



「嘘。だったらなんで、あの時別れてって言わなかったの?……あたし、奈々絵のこと忘れないから。


……奈々絵が別れてっていうまで、あたし、奈々絵の彼女のつもりでいるから。……ううん。たとえ奈々絵が別れてって言っても、あたしは絶対に認めない」


自分の心にある確かな決意を、確かめるかのように恵美は言った。


「ハッ、……我儘だな」

目を逸らしたまま、俺は嘲笑うように言った。


「……そんな我儘な子を好きになったのは、どこのどいつよ?」



「ああ、そう言ったな。……そもそもそう言って、こんな厄介な奴をおもちゃとして飼い慣らそうとしたこと自体、間違いだったのかもな」


下を向いて、淡々と言った。