家族の葬式の日、叔父に暴力を奮われ、叔母に暴言を吐かれていた俺を見て見ぬふりしていた奴が、そこにはいた。

「奈々絵、これやるよ。――紫苑からだ」

爽月さんはそう言って、後ろ手に隠していた25本の花梨の花を包んだ花束を、俺に差し出してきた。


花梨の花を包む包装紙には、表に、“奈々絵へ”と書かれた手紙がクリップで留められていた。

「姉ちゃんが……っ!?」

俺は慌てて花束を受け取って、手紙を開いた。

**

奈々絵へ


あなたがこの手紙を読んでいる時、きっと私は、あなたのそばにはいないでしょう。

私が奈々絵から離れるなんてことは絶対にないと思うけれど、万が一のことを思って、私はこの手紙を書くことに決めました。


ごめんね。奈々絵には私がいなきゃダメなのに、勝手にいなくなってしまって、本当にごめんなさい。


俺の瞳から、音もなく涙がこぼれ落ちた。
――ああ、本当に勝手だよ、姉ちゃんは。こんなものを残して、勝手にいなくなるなんて……っ。
俺は、なにかに鷲掴みされたみたいに胸が痛かった。


でもね、一つだけ言わせて?私は奈々絵を守りたかった。奈々絵を守るためなら、なんでもするつもりだったんだよ?


――だって奈々絵は、なにがあっても、私の自慢の弟だから。