――ガラッ!!

「奈々っ!奈々絵、空我が……っ!!」

突然病室に入ってきた潤からその言葉を聞いた先の記憶は、無い。

気がつけば、俺は潤や恵美と一緒に、空我がいる病室にいた。

「空我さん、本っ当に、覚えてないんですか……?
みんなで花火もしたんですよ?」

「……っ、ごめんな、純恋」


空我は申し訳なさそうに顔を歪めて、目の前にいた純恋を見つめていた。

**

「……彼は軽度の記憶障害だ」

俺達四人を別室に案内してから、すぐにアビラン先生はそう言った。


「記憶障害……?」


潤は頭を抱えて、先生の言葉を繰り返した。


「ああ、突発性のね。……彼は恐らく、君らといった旅行の全てを覚えていない。

そして恐らく、自分が海を嫌いだった理由すらも、彼は覚えていない」

――忘れてる?


空我が、あの俺の人生をかけた旅行の日々を……?

「……っ、嘘だろ」

苦虫を噛み潰したような顔をして、潤は言った。

先生が紡いだその言葉は、まるで、胸をナイフで貫かれたかのような鋭さを放っていた。