――俺の私物のノートパソコンを。


パソコンの画面には、アメリカで余命宣告されてから、俺が毎日のようにつけていた日記が表示されていた。

「……空我」

声をかけると、空我は、恐る恐ると言った様子で後ろに振り向いた。


「……忘れろ、全部」

目を逸らして、俺は言った。


「は? ふざけんなっ!!!」

パソコンを閉じると、空我はベットから立ち上がり、必死で俺の肩を揺さぶった。


「――20歳で死ぬってなんだよっ!!なぁっ!!」


泣きながら、空我は叫んだ。
叫び声は天井に反響して、静かに消えた。

「……っ、知られたくなかった、お前だけには」

「俺だって知りたくなかったよ、こんな話!!

でもっ、最近奈々絵毎日のように体調崩してるし、俺をどっかに閉じ込めていなくなった母さんみたいに、いなくなっちゃうのかと思うと、怖くて……っ」

空我の涙が、俺の頬に滴り落ちた。

「……っ!」
苦虫を噛み潰したような顔をして、俺は言葉に詰まった。何も言えなかった。……いや、俺には何もいう資格さえないと思った。


――なんで俺は、こいつのことをもっともっと考えなかったんだろう。


俺はずっとずっと嘘をつくのに必死で。当たり障りないお前らとの日常を守るのに必死で、お前らの本当の気持ちなんて、ろくに考えていなかった。


俺はただ、俺と離れた方がお前らは幸せだと決めつけただけだ。


それしか選択肢はないと思ったから。