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「――俺のこと、忘れて生きて」
「何言ってるの……?奈々絵」
震えた声で、恵美は言った。
「だからそのままの意味だよ。今まであったこと全部忘れろって言ってんだよ。今すぐに。
――お前を好きだったことなんて、一度もねぇよ」
ただ思いついたことを、何も考えずに。
まるで、朗読をするかのように淡々と喋った。
――そうでもしないと、壊れそうだったから。
――ごめん、恵美。本当にごめん。
お願いだから、どうか俺を嫌いになって。
君のオレンジ色のショートカットの髪が、くりくりした茶色い瞳が、長いまつげが、160弱の身長が。
その優しくて、破天荒でお節介な性格が。
――君の全てが好きだった。本当に。
――愛してた。どうか幸せになって、本当に。
――どうか今すぐに、俺を忘れて生きて。