「奈々絵」

「……なんだよ」

下を向いていた俺の顔を覗き込んで、美弥香は言った。俺はそれに、投げやりに答えた。


「俺言ったよな?――迷いがあるならやめろって」


「……その前に、話すことがあるんじゃないのか」


掛け布団を片手で掴んで、俺は美弥香を頭ごなしに睨みつけた。


――先生を返したのは、何も姉を思い出すからってだけじゃない。


最近、美弥香の様子が変だからだ。


“迷いがあるならやめろ”と言ってきたり、“悔いがなくなるのか”と聞こうとしてきたりして、 美弥香は最近、何かとおかしい。


今までは、何も突っ込んでこなかったのに。


何より、共犯者なのに、なんで俺が倒れたからって駆けつけてきたんだ。もし俺達が話してるのを聞かれて、恵美達に俺が海に来た理由がバレでもしたら、どうするんだ?


反対しないって散々言ってたのに、これじゃあまるで、反対するかしないか迷ってるみたいだ。


姉のこともあるけど、それ以上に本当はそれがなんでなのか知りたくて、俺は先生を病室から追い出した。