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コンコン。
「失礼します。初めまして、赤羽くん。今日から退院までの間、赤羽くんの主治医を担当します、 小木原心響(オギハラシオン)です。よろしくお願いします」
ドアを開けて病室に入ってくると、心響先生はベットの前で足を止めて、ふわっと和やかに微笑んだ。
心響……。――先生は幸か不幸か、死んだ姉とよく似ていた。名前も、胸のあたりまで伸びたロングストレートの黒髪も、長いまつげも、何もかも。
違うのは心響という漢字と、姉と違って髪を束ねている所だけだった。
――なんで。
「奈ー々絵!!」
今も忘れられない、大好きな姉の姿が頭をよぎった。
姉は紫苑だし、髪型も違う。それに、姉はすでに死んだんだから別人だ。でも、名札に書いてある心響という文字を見ただけで、どうしても姉のことを思いしてしまう。
――まるで呪いだな。
「……よろしくお願いします」
目線を合わせずに、俺は首だけを動かしてお辞儀をした。――思い出すと辛くて泣きそうなのが、バレないように。
「それじゃあ、呼吸器外しますね」
俺が頷くと、先生はゆっくりと呼吸器を外して、優しく笑った。