俺は服を元に戻して、カーテンを開けて、試着室から降りた。
「――どうする?これ買う?」
俺が片手に持っていたさっき着た服を一瞥して、恵美は首を傾げて言った。
「……んー、買ってもあんま着ないと思うんだけど」
せっかく恵美が買ってくれたのに、病院だけで着るハメになってもなぁ……。
「いいよそれで!!あたしが奈々絵に似合うと思って選んだだけだから!」
腑に落ちない顔をして俺が言うと、恵美は背伸びをして俺の頭を撫でて、たいそう穏やかに笑った。
「……着るよ。いつかはわかんないけど、必ず」
胸が締め付けられ、俺は気がつけば、恵美の右手の指に、自分の左手の指を合わせて、そう言っていた。
着るとしても、この旅行か病院で着るしかないのに……。
できるかもわからない約束して、どうするんだ。
「うん!!」
恵美はそんな俺の気持ちも知らずに、さぞかし嬉しそうに、綺麗に口元を綻ばせた。
その笑顔を見ただけで、その約束を、――守りたいと思ってしまった。
守るよ、きっと……。君の目の前で着ることは、もう二度とないと思うけど。