「奈々絵、どうかしたか?」


「……別に。どうもしてない」


心に余裕ができた空我は、本当に心配そうに、俺の顔を覗き込んできた。

不安そうな顔をした空我を見てるのが辛くて、俺は咄嗟に、目を逸らした。


俺には、余裕なんてない。


一度でも気を抜いたら、そこで終わりだ。


ほんの少しでも気を抜けば、すぐに合併症を隠してることがバレるかもしれない。


それなのに、空我はそんな俺の気持ちも知らずに、余裕で俺の心配なんかして……。



つい昨日まで、俺がこいつを心配する立場だったのに。


“何もかも話しちゃえよ”

話したいと願っている自分と、話したらダメだと思っている自分がいた。前者の想いが、俺の思考を埋め尽くす。それはまるで悪魔の囁きのようで、残酷で悲惨な想いでもあり、同時に、痛切だった。