ハンカチでもじもじと涙を拭いていたら、彼はため息まじりにちょっとくたびれたようにつぶやいた。

「さっき話していたことに関しては、俺の上司としての意見を言っただけ」

上司としてですか、と首をかしげると、彼は悩ましげに片手で顔を覆った。
まるで私と話しているのが疲れるみたいに。

「個人的には、もちろん君にはずっとそばにいてほしいって思ってるよ。一緒に働きたいって。君のことが好きだから。だけどそれは俺のエゴであって、君がもしももっと変化を望むなら違う部署に行くのも仕方ないのかと思って……」

「─────なんの話をしていますか、主任」

「…………森村さんのことが好きだという話です」

「……え?」

「え?」


しばしの沈黙、その間ずっと見つめ合う。
ロマンチックな雰囲気は無しで、ひたすらお互いの意図を探り合うように目を合わせる。

ぱちくりと瞬きを繰り返している私に、痺れを切らした主任がだからね、と口を開く。

「君は部下だからそういう感情を見せちゃいけないと、こちらも必死なんです。分かってください。言ったでしょ、俺は邪念だらけだって」

邪念とは?と、私が眉を寄せると、彼は何かを悟ったような顔をした。
なにを思ったのだろうと身構えているうちに、

「やっと理解した。森村さんは、ちゃんと伝えないと分からないんだな」

と、妙に清々しい口調で振り切ったように笑った。


……あ、やっと私の好きな彼の表情になったな、とぼんやり思っていたら。

「今すぐ抱きしめて家に連れて帰りたいという気持ちでいっぱいです。これが、俺の気持ちです」

「………………え!?」

思いもよらない言葉をかけられて、一瞬で顔が真っ赤になるのが分かった。