「すみません。いつもいつも困らせてしまって。これ以上、迷惑はかけられません。とにかく私、もう降ります」
耐え切れなくなって、今まさに電車が停車しようとしているこの駅で降りることにした。
唖然としている主任に、私は深々と頭を下げる。
「拾ってくれるところがあるか分かりませんが、来週にでも人事部に相談して異動先を探してみます。ありがとうございました」
「森村さん、ちょっと待って」
「ありがとうございましたっ」
呼び止められているにも関わらず、顔も見ずに振り切って電車を降りた。
ほとんど人のいない駅のホームを駆け抜けて階段を一気にのぼり、改札を通って外に飛び出す。
息を弾ませて、真っ暗で冷たい夜の中に逃げ込んだ。
─────終わった。
私の一年越しの片想いが、終わった……。
また泣けてきて、ハンカチを探す。でも、見つからない。
手にも持っていないしポケットにもなくて、もちろんバッグにも。
どこかに落とした?
慌てて振り返ると、有沢主任が見たこともない不機嫌そうな顔で私のハンカチを持って立っていた。
「─────えっ!?どうして!?」
思わずすっとんきょうな声を上げると、彼はハンカチを投げつけるようにしてこちらへ向かってきた。
「森村さんは本当に俺のこと好きなの?そうとは思えないくらい俺に対して配慮が足りないと思うんだけど」
投げられたハンカチをアタフタしながらキャッチしているうちに主任はもう目の前まで来ていて、その距離はもう手を伸ばせば届いてしまいそうだった。
なぜか彼が怒っていることだけは分かったので、つい常套句みたいに「すみません」を繰り返してしまう。
「……人の話は最後まで聞いてくれないかな」
「は、はいっ」
声だけは穏やかなので、もうこちらとしてもパニックである。
それに、途中下車したということはお互いに終電がないということだ。彼はそのことに気づいているのだろうか?