「今回のことで、ちょっと思ったことがあって」
やや改まったように主任が切り出したものだから、私はついにあの告白のことを言われるのかと怖くなって、目をぎゅっとつぶって次の言葉を待った。
「コンペが終わったら一度きちんと話したいです」と言っていたから。
それがまさに今なのだと悟った。
……けれど。
「森村さんて真面目だし、努力してるし、しっかり上を向いて仕事してるでしょ。ダメ出しされても食らいつく力も持ってる。だから、もしかしたら─────企画部じゃないところでも、やっていけるのかなって」
「それって、どういう……」
私が声を震わせていることになんか、主任はまったく気づいていない。
視線を前に見据えたまま、続ける。
「下手に視野を狭めてしまうのも、上司としてどうかと思ったりしてね。企画部にいることで宝の持ち腐れになったらもったいないし。森村さんがもし違う仕事をしてみたいとか思ってたら…………、あれ!?どうして泣いてるの!?」
私が一切相槌をうたなくなったので、どうやら不思議に思ったらしい。
こちらを向いた主任の顔が、一瞬にして困惑したものに変わった。
泣いちゃダメって思ったら、涙が止まらなくなってしまった。
次から次へと溢れる涙を拭いながら、私は隣の主任を見上げる。彼の顔はものすごく困り果てたものだった。
申し訳ない思いに駆られても、涙は止まらない。
ハンカチで覆って、おそらく史上最低をマークしているであろう不細工な顔を隠す。
「しゅ、主任は……私のことやっぱり邪魔ですか!?思いっきり好意を向けてくる部下なんて扱いづらいですよね」
「い、いやそうじゃなくて……」
「好きだなんて、もう言いませんから。だから……」
言葉が、うまく続かなかった。
涙で喉に詰まって、震えてしまって情けない。
それでもどうにかこうにか絞り出した。
「主任と一緒に仕事したいって思っていてもいいですか……」
彼の顔が、切なげに歪んだ。
それは初めて見る表情で、何を言いたいのかは今の冷静でない頭の私には分からなかった。
マイナス思考が先行して、あぁやっぱり、と思ってしまった。
どうやって断ろうかって、考えてるんだ─────