打ち上げと称した飲み会は、結局三次会まで続いた。
終電が間に合わないので、三次会の途中で抜け出そうと思っていたら同じことを考えていたらしい有沢主任に呼び止められる。

「森村さん、そろそろ帰る?」

「あ…………はい」

ちゃんと声をかけてくれるあたり、やはりあの話はしなければならないということか。
お酒のせいで忘れてくれないかな、なんて甘い考えは通用しない。


三次会でだいぶ人は減ったけれど、茜やカゲちゃんはまだ参加していた。

彼女たちに先に帰ることを伝えに行くと、私の隣に主任がいたものだから茜が途端にニヤニヤと何かを言いたげな笑みを浮かべる。
彼女の言いたいことは先読みできたので、先に断りを入れておいた。

「茜。余計なことは言わないでね」

「あはは〜、菜緒ってばこわーい!」

完全に出来上がっている様子なので、むしろ彼女の帰りが心配である。カゲちゃんがそばにいるから大丈夫かな?

「お疲れ様でした」と、方々に声をかけて私と主任は一緒に三次会のお店をあとにした。


「主任ってお酒に強いですか?」

駅に向かって歩きながら、思いついた質問を投げかける。
だいぶ冷え込んできた空気は、コートの隙間から体温を奪うみたいだった。

すぐ隣を歩く彼は、どうかな、と答える。

「普通だと思うけど。弱いって言われたことはないかな。二日酔いの経験もない」

「それって強いってことですよ」

「そうなの?普通だと思ってた」

よしよし、わりと普通にしゃべれてるぞ。
もちろん彼の顔なんかは全く見れてはいないけれど、不自然な感じではないはず。

十日ほど前に好きだと伝えた相手をまじまじと見つめられるほど、私はできた人間ではない。