「私も鮫島さんのことデートに誘ってみよーかなぁ」
ボソッとつぶやく茜の想い人は、社員食堂の調理師さん。
でも彼はなかなか手強そう。なんというか、女の人には興味がなさそうな冷たい雰囲気を持つ人なのだ。
まるで恋人はフライパンか包丁って言いそうな。
一人で勝手に想像して笑っていたら、茜が不服そうにこちらを向いた。
「ちょっと、菜緒。あんたも笑ってないで早く好きな人の一人でも作りなさいよ」
「それは…………、うん。……そうだね」
答えを濁して、私はまた主任の方に目を向ける。
偶然にも、彼もまた私を見ていて目が合った。
即座に背けて、目が合うと同時に鳴り出した胸のドキドキを落ち着かせるべく深呼吸した。
「ねぇ、菜緒。そういえば今夜も有沢主任に送ってもらえるんじゃない?主任とかどうよ?モテそうなのに浮いた噂ないからチャンスじゃない?」
何も知らない茜が、なんともストライクど真ん中の直球を投げ込んできたのでつい飲んでいた烏龍茶を吹き出しそうになってしまった。
咳き込んでいるうちに、カゲちゃんまで「いいですね!」と乗っている。
何も知らないって、ある意味最強かもしれない。
「ここはひとつ、菜緒が送り狼になって既成事実を……」
「こら、茜!!」
「もー、冗談でしょーがー」
通じないんだから、と呆れ返ったような茜を、私は懇親の力を込めて睨むことしか出来なかった。