「なによそれー」

「つうか、俺の質問にも答えてくんない?どこ行ってたんだよ、おまえ」

さらっと話題を変える綾はさすがだ。

新たな話題を作ることであたしが、彼の質問に答えなければならなくなる。

そっと、忠告された気分だ。

これ以上は踏み込むな、と。

「…マークと離れてからはママと暮らしてたわ。だけどママはあまり外出を許してくれなくて」

まあ、あたしがマークの元から逃れた翌日にお腹を刺そうとしたから、無理はないのだけど。

あたしを外に出すことをものすごく怖がってたんだ、ママは。

「だから、会えなかった。逢いに行けなかった。ごめんなさい」

「お前が自分から謝るなんて初めてじゃね?」

「…そういう失礼なことは言わないでくれる?」

ははは、と笑いながらごめんごめんという。

いつもの優しい綾に少し安心した。

「…じゃあ、やっぱり学校が終わった後でいいじゃない。ねえ、仁」

そう、振り向くと。

「綾、あんま近づくなよ。お前には、夢がいるだろ」

なにやら綾を睨む仁の姿があった。

「仁……?」

「ははっなにもしてねえだろ?お前はヤキモチ焼きだな」

ヤキモチ焼きって、それは…なんだっけ。

“ 嫉妬 ”っていう意味だった気がする。

って、あれ?嫉妬?

この男が嫉妬なんてするのだろうか?

気高く、美しく、…静かに吼える野獣が。

「ちょっとこっち来いよ」

綾との挨拶もそこそこに、翔とはほぼ挨拶もせずに、部屋を出て、階段を降り、あの部屋へとたどり着く。