……そんなふうに言い聞かせたら、断りにくいだろ。
「蓮!」
どうするか迷っていたら、母さんの声が俺を呼んだ。
母さんは前のほうから走ってくると、人目を気にせず抱きついてきた。
「家にいなくて心配したんだよ、このバカ……」
すぐ、帰ってきたんだ……
嘘じゃなかった。
それがなぜか嬉しくて、涙が流れた。
「れんくん、泣いてる! どうして?」
……こいつの存在、一瞬忘れてた。
そしてその声で母さんも、周りの人が見えてきたらしい。
「あれ、櫻木さん? 叶花ちゃんも。どうしてここに?」
「それはこっちのセリフ……あ、蓮くん、浅賀って言ってたね。そっか、浅賀さんの息子さんでしたか」
どうやら、母さんは二人のことを知ってるみたいだった。
母さんの、知り合い。
「誰か病気なの?」
ほかにも母さんと知り合う場はあったんだろうけど、母さんが看護師だ、ってことしか知らない俺は、それしか思いつかなかった。