「……はよ」
いつものように冷めた声で言い、定位置である窓際にある丸椅子に座る。
そしてカバンから文庫本を取り出し、栞を挟んでいたページを開く。
俺たちの距離は、あの日から縮まらなかった。
俺の叶花に対する苦手意識が消えなかったから、そうなってるだけ。
叶花は距離を縮めようと奮闘している。
「蓮くん、春ですね」
語尾に音符が付いていそうな、浮いた話し方。
……結斗さんがいるんだ、そっちと話せよ。
どうせ俺は無視をして、本を読むんだから。
「春と言えば、二人が初めて会ったのも、春なんだよね?」
ほら、結斗さんが会話に入ってきた。
俺は読書に集中してるから、そのまま二人で会話を進めててくれ。
「うん! 蓮くんね、瞳ちゃんに構ってもらえなくて寂しいって泣いてたの!」
……集中させろ、そこのアホ。
「泣いてない」
「ううん、泣いてた!」
しつこいやつだな。
知ってはいたけど。
……無視だ。