「よ、まり!」
友達と喋って登校中、ふと背中を叩かれて声をかけてきたのは私の気持ちなんて知るはずもない……瑛人。
「おはよ、朝から元気だねー」
でも私の気持ちは知られちゃいけない。
そう。
バレちゃいけないんだ。
「なんだよ、朝から素っ気ないなぁ
せっかく俺が挨拶してやったの、に……
っておい!無視すんな!」
私は瑛人の秘密を知ったんだ。知ってはいけない秘密を。
「……多分遅刻なんだろうけど朝練頑張ってね!」
頑張ってね、はえいとが怒ってる時に怒りを沈める魔法の言葉。
頑張ってね、って言葉を彼女に言われたいだなんて前も話してたっけ。
「おう!」
そういってニカッと笑って体育館の方に走り去るえいとの後ろ姿を見送る。
そう、私はこうやってニカッて笑ったえいとの顔が大好きなんだ。
「朝から拷問お疲れ様」
「うん、ほんと人の気もよく知らないで、酷いよね……」
友達には私が片思いしてる、とだけ伝えてある。
瑛人と私の秘密は親にも友達にも誰にも言っちゃいないんだ。
その秘密がある限り私は片思いを実らせることは出来ない。
「顔火照ってるよ?」
「うわあ、まじか!」
確かに頬に手を当てみると少し暖かい気もする。
笑顔にやられた今日この頃。
私麻梨音は瑛人に絶賛実らない片思い中です。
「なぁなぁ今度遊びに行かね?」
勘違いしてはいけません。
こいつに下心なんてあるわけないじゃないか。
「さ来週の日曜なんだけどさー、せっかく約束してたのにあいつ、彼女におっけー貰ったから遊べなくなったんだと
酷くね?!
だから頼む!一緒に買い物ついてきてくれない?姉ちゃんの誕プレ買わなきゃ行けないんだよ!」
ほらね。
下心なんてあって欲しいけど1ミリもあったもんじゃない。
私は瑛人の男友達と所詮同じ立場でしかない。
「再来週ってテスト前なの知ってるの?」
「知ってるけど!その日しかオフないんだよ!」
「……わかったよ!」
そりゃさ好きな子に誘われて断る子なんている?
たとえ大事にしてるテストがあるとしても。
「じゃあ、指切りだからな」
「え、何幼稚園児みたいな事言ってるの!」
あなたには何も無くても好きな子に触れるのってすごいドキドキするし勇気がいるんだよ!分からんかい!クソ野郎!
「ほら、いいからいいから
俺はもういわゆるドタキャンをされたくないんだよ」
「あっ……」
というまもなく瑛人に手を取られあれまあれまという間に指を絡められる。
「ほら!指切りしたからな!絶対予定入れるなよ!」
前の方の席にに戻っていく瑛人の背中を見つめる。
「言われなくても何もいれないっつーの」
絶対今の私は顔赤い。
瑛人の手、ゴツゴツしてたな。
男の子の手だった。
指にやられた今日この頃。
私茉莉音は瑛人に絶賛実らない片思い中です
「はーい、では班を作ってください」
来週研修という名の合宿に行くらしい。
今日はそのグループ決め。
先輩いわくほんと研修というのはただの名で合宿なんだとか。
だから実は密かに友達と楽しみだね、って話してたりする。
「茉莉!男の子誘わなきゃだよね、誰誘う?」
そんなニヤニヤした顔で聞かないで欲しい。
絶対誰誘いたいか分かってるでしょ、友達君よ。
「あーいたいた
茉莉!ちょっとこっちあと丁度女子二人だから来ねえ?」
軽く手を振りながら近づいてきたのはまさに噂の瑛人である。
「えっと……なんで……?」
友達はニタニタした顔で後ろから視線を送ってるのがわかる。
「いや、なんでってわかんないんだけどさ……
体が勝手に動いてたんだよ」
「う、嬉しい事言ってくれるじゃん!
じゃあお邪魔しよっかな、ね?」
瑛人に顔を見られないように急いで顔を後ろにいる友達の方に向ける。
「おけ、じゃあ早く来いよ」
友達の方に駆けていく瑛人はほんのり照れて見えたのはほんとにきっと気のせい。
「よかったじゃん!」
「うん!」
勝手に、って言葉にやられた今日この頃
私茉莉音は瑛人に絶賛実らない片思い中です
「えー!そーなんだ!
瑛人くんがすきなら私も聴いてみよっかな!」
ああー、ムカつく。すごいムカつく。
いや、分かってるよ。ヤキモチ妬いたって何も変わらないって。
でもね。やっぱり勝手に耳があっちを向いちゃうんだ。
「ーい、おーい、茉莉!
聞こえてるの?!」
「う、うわあ!ごめん!聞こえてなかった!
どうしたの?」
「んもお!さっきからそればっかり!
どうせ瑛人くんと女の子が話してるのに耳傾けてるんでしょ?」
「うん……ごめんね?」
「んー、今度飴持ってきてね」
「っ、分かった……」
友達の交渉に首を縦に振りつつ瑛人の方に顔を向ける。
女の子は少し頬を染めてちょうど瑛人と別れたとこだった。
正直いって悔しいけど瑛人はモテる。
私も友達いわくモテてる方ではあるらしいけど瑛人はそんな私とでも比べ物にならないぐらいモテる。
だからヤキモチなんて日常茶飯事なんだ。
でも、今の子だけは違う。あの子はいつも、いつも瑛人に話しかけてる。
もしかしたら私もあの子と同じ立ち位置ぐらいなのかもしれない。
そう思うだけで目がじんわりと熱くなる。
「茉莉、ちょっとトイレ行ってくるね」
「5時間目遅れないようにねー」
「そんなにトイレに長居はしません!」
私と友達はいい関係を保ててると思う。
私はこれぐらいの距離感の子が好きだ。
近過ぎず、遠過ぎず。
だから世にいう連れションなんてことはしない。
たまたま一緒だったら一緒に行くけど。
「茉莉ー」
「うわぁっと、びっくりしたー
どうしたの?」
私のことを茉莉と呼ぶのは友達と瑛人ぐらい。
それ以外の子は茉莉音ちゃん、と呼ぶから
無論声をかけてきたのは瑛人である。
「いいなぁ、塩パン
俺も欲しい」
「そんなこと言われたってあげないからね?」