(まさか、その駆け落ち相手が皇弟とは、夢にも思わなかったけどな)


母親の遺した言葉を聞いて愕然とすると共に、また、泣き出した翠蓮。


腹に子を宿した時、女は精神的に不安定になるという。


多分、それだ。


いつもは毅然として、強いふりをしている翠蓮はその仮面すら被れなくなって、黎祥と袂を別れて、苦しくて……ここに戻ってきた。


「―忘れるな、翠蓮、俺はお前の味方だ」


嗚咽する翠蓮の肩を抱き寄せて、撫でてやる。


声にならない声を上げる翠蓮にとって、黎祥は初めて愛した人間で、この世で一番、恋をしてはいけない相手だった。


「黎祥の気持ち、裏で聞いてんだろう?あいつはあいつなりに、お前の気持ちを汲んで、理解しようとしていたぞ」


それなのに、翠蓮だけが立ち止まって、後悔していていいはずがない。


「お前は逃げるのか?理解できないから、と」


「……っ」


「そんなの、お前らしくないぞ。大体、理解できないことで悩むのは、心のどこかで理解したいと思っているからだろ。いつもみたいに、素直にぶつかれ。黎祥ならきっと、お前のことならなんでも受け止める」


手を差し伸べるだけが、友情じゃない。


心配だからこそ、ちゃんと言うんだ。