「あいつにとって、お前は愛しい存在だよ。守りたい、とても、とても大切な存在だからこそ、お前に気持ちを伝えて、あいつは離れたんだ。お前がどうしても、妃になることは望まないから」
「……」
「俺は男だし、嫁は娶る側だ。でも、言えることはある」
翠蓮の両手を掴んで、彼女を真っ直ぐに見て。
「どこに嫁に行っても、お前は苦労するぞ」
「……」
「姑がいないところもあるだろうし、苦労がない家もあるだろう。下町の誰かだったら、お前を快く受け入れるだろう。でも、ちゃんとお前を見てくれる人は、きっといない」
そういうものだ。
例え関係ないとしても、李という姓は、彼女の薬に関する知識は、武術は、容姿は、どうしても、男を引き付ける。
「おばさんが……お前の母が、息を引き取る前日に言っていた」
『変な方向に好奇心が旺盛で、怖いもの知らずだとは思うけれど、決して強いわけでも、しっかり者でもないあの子を……
自分が弱いということを忘れてしまっている、私の可愛い娘を、翠蓮を、いつか、誰かに、託して欲しいの。
祥基たちと一緒に、あの子が心から笑える相手の元へ、甘えられる、背筋を少し曲げて泣ける、あの子の全てを受け入れて愛してくれる人を、見つけて欲しいの。
そして、もし、そんな人が見つかって……でも、手が届かないというのなら、決して、諦めさせないで。
諦めたって、何も得られない。
あの子が諦めてしまったのなら、皆が諦めないであげて。
例え、どんな所へ行っても、大丈夫よ。
だって、私と飛雲……鳳雲様の娘だもの』
最期の最期まで、娘を案じ続けた白蓮さん。
こっそり、怜世から聞いたことがある。
実は、白蓮さんは後宮に入ることが嫌で、駆け落ち同然で行方不明になってしまった、現李将軍の妹であるということ。
きっと、諦めない恋っていうのは、彼女の経験で。
彼女も諦めなかったから、最期はあれだったけど……笑って、この世から去れたんだ。