「昔から、僕は敏感でね。人の気配とか、政治の流れ、人の関係性……聞かなくても、自然とわかってしまう」
「……」
「物心がついた時、僕のそばには母がいた。君も知っている、蘇貴太妃だ」
顔は見た事ないけれど、先々帝の後宮において、彼女は柳皇太后に次ぐ、第二位の位を賜っていた。
理由は、彼女が第二皇子を産んだから。
でも、さっきの本を見た限り、流雲殿下は違う女性が産んだ子供であるはずだ。
流雲殿下の母親の存在を隠したい人なんて、自分の子供として偽った人ぐらいなものだろうし。
きっと、それを流雲殿下自身も自覚している。
気づいている。
「けど、僕は言っただろう?蘇貴太妃は僕の母では無い」
「……どうして、そう思われたのですか?」
すると、彼は罰が悪そうに。
「話していてね、言葉が通じない時があったんだ」
「……」
「噛み合わない。まるで、相手が人間じゃないみたいに。―いや、もしかしたら、僕が人間らしくなかったせいかもしれない。ただ、直感的に思ったんだ。この人は、僕の産み親ではないって」
ただ、不思議と違和感もなく、ストン、と、その思ったことが胸の中に落ちたらしい。
「その頃、既に父はいない人だった。朝廷からも、後宮からも、過去を偲ぶための人として密かに扱われるような、そんな隠された存在になってたんだよ。だから、表立って、調べることは出来なかった」
「……」
黙って、翠蓮は話を聞き続けた。
邪魔することなど、出来るはずもなかった。