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「……というわけで、神谷くんは君に謝ったんだよ。分かったかい? 蓮くん」
数日後、田辺先生から神谷の事情を聞いた僕は、言葉を失った。放心状態になる僕に、先生は言った。
「強くなりなさい。人を、自分を許してあげられるくらい」
「先生、僕……」
なにも言えなかった。田辺先生は僕を見つめて言った。
「君はまた、自分を責めているのかい」
「……え?」
まるで心を覗かれた気分だった。
「蓮くんは、昔からそうだ。いつも現実ではなく、違うなにかを気にしている」
「違う、なにか……ですか」
「そう。君はいつも人の心配ばかりだ」
「……」
「例えば、お母さんとか、ね」
田辺先生の言葉にハッとした。僕はいつも心のどこかで母に負い目を感じていた。
僕がいなければ、母は夫を失うこともなく、手のかかる息子を命懸けで育てる苦労をせずに済んだ。
僕は無意識に感じていた母への感情を知り、肩を落とした。己の心と対面した僕は、どうすることもできず、現実から目を逸らしていた。