* * *
ピンポーン。
「はい、どちら様でしょうか」
「櫻井です」
「ああ、蓮くんね! ちょっと待って今開けるから」
「すみません」
僕は海愛の家を訪問していた。片手に手土産を持ち、おろしたての白い角襟シャツを着て、僕は庭に停めてあった見慣れぬ車に目を向ける。以前に海愛から聞いた黒のワンボックスカーの所有者を思い出し、僕はこれから予想される状況を思い浮かべる。
そもそもどうしてこんなことになったのか、ことの始まりは、海愛の高校の卒業式の日に起きた。
その夜、風呂から上がったばかりの僕に海愛から一本の電話がかかってきた。髪から滴る水滴をバスタオルで拭き取りながら、僕は着信に出る。聞こえたのは暗い海愛の声だった。話が長引くことを想像し、僕はそのままベッドに腰を下ろす。
「蓮、本当にごめんなさい」
第一声で謝罪の言葉を述べられ、僕はますます状況が理解できなくなってしまった。
「どうしたんだよ」
優しく声をかける。海愛は電話越しに震える声で言った。
「私がいけなかったの……お母さんと、お姉ちゃんに私が言わなければ……」
僕は首を傾げながら海愛の言葉をじっと聞いていた。
「だから、どうしたんだよ?」
「お母さんとお姉ちゃんが蓮のこと、お父さんに話しちゃったの……」
「え?」