「……なに?」
僕は恐る恐る言葉の続きを尋ねる。次の瞬間、僕は手にしていた携帯電話を思わず落としそうになった。
「忙しくて言うの忘れてたんだけどさ。オレ、大学そっちに戻ることにして、今一人暮らししてるんだわ」
「えっ」
「だから、ここから十五分もあればお前の家に行けちゃうわけ」
「え、え……は?」
僕は那音の言葉に驚きを隠せず声を上げた。
「今度、突然行って驚かそうと思ってさ」
「はぁ……」
僕は呆れながら那音の言葉を聞いていた。
「やっぱり直接話さねーと、オレの気が済まねぇや。待ってろ。今からお前ん家行くから」
「今からって……もう二十二時過ぎだぞ!」
「関係ねぇよ。今から行くから、絶対出ろよ」
僕は一方的な那音の行動に思考が追いつかないまま、焦りを隠すように髪の毛をくしゃくしゃと掻き乱す。跳ね返りのある細い猫毛がするりと指を滑っていく。
「お、おい那音!」
「逃げたら、親友やめるからな」
そう言い放ち、那音は強引に僕との通話を切った。