優等生が恋をしたら。<短編>


「…知りたい?」







『…っ……』







表情を1ミリも変えずに淡々と私に聞く橋田。








「ていうか今お互い受験期だよね。」







「受験期なのにそういうこと考えてる暇あったら
それこそ一に勉強、二に勉強じゃないの?」







1番言われたくないことを言われた私は
橋田の言葉に改めてハッとした。








…………正論だ。何やってるんだ私は。







『…そうだよ。分かってる。分かってるけど…』







「けど?」






彼は逃げ道を作ってくれない。

橋田は…いつも余裕がある。
隙がなければ性格も賢い。







『………』







私は彼ほど頭は賢くないんだ。
言い争いは嫌いなだけあって口下手だ。







余裕がなくて橋田よりも弱く見えた私。





私はふつふつと沸き上がった黒い塊に耐えつつ
橋田に近づいて…






グイッ……………――





「…おい、倉島…?」






ネクタイを引っ張って…







唇を静かに重ねた。


『バカッ………なんでそこで真面目になってんの。』







『そう、確かに受験期だよ!
でもさ、恋人なんだから…っ
それくらいの時間だってほしいじゃん。』







『橋田は私のこと好きって言ってたけど、
そういう風に言うってことは偽りの好きだよね?』







『もう別れようよ。私橋田に嫌な思いさせてたでしょ』








『これで最後だから。お互い受験…頑張ろう』







そう橋田に反論させる暇を与えさせずに
全て言い終えた私の顔には涙がツーっと
引かれていた。







『帰る。』







感情的になってしまった弱さを
これ以上晒したくなかった私は
家に向かって猛ダッシュした。

橋田と別れてもう2ヵ月経った。









私達は進級した4月から付き合い始め
9月に別れた。







結構付き合った方ではないだろうか。







私は指定校推薦だったため、
無事合格出来た。







この別れてから2ヵ月の間に指定校推薦を
掛けたテストがあったが、成績は初めて
学年1位の座を降り、2位だった。








正直とても悔しかったのだが、
それ以上に悔しいのは橋田とのわだかまり。







本当に言いたかったのは
あの時のことだけではない。







もう少し言葉を慎重に選ぶべきだったと
今でも反省の念が付き纏う。







しかもそのテストの1位は橋田だった。
点数の差は僅か1点。

はぁ。







私はいつも通りの何も変わらない教室に入り
窓側の自分の席に座って黄昏ていた。







そんなときに聞こえたクラスメートの男子達の声。

「なあなあ、橋田。橋田てさ、倉島と別れたって
本当なのか?」








私は橋田の言葉にピクっと反応した。







橋田はなんて答えるのだろうか。







「何。噂になってんの?」






恐る恐る聞いた男子1人。






「あー。その反応て…結構ガチっぽい?」







「まあね。別れたよ。」







その言葉を聞いて余計後悔が募った。
やっぱり別れるなんて言うべきじゃなかったと。

居心地が悪くなった私は屋上へと向かうため
教室を出た。







教室を出ると、知らない男子生徒が私を
見つめていた。








「あなたが倉島由佳さん?」








『うん、そうだけど。』







上履きを見るに、恐らく同い年。







「俺、一ノ瀬結人(いちのせ ゆいと)て言います」







「隣のクラスの。良かったら少し話しませんか?」







『わかった。行こう。』






私はそう答えるなり彼について行った。

来た場所は屋上。







今は昼休み。







少し冷えてきた風を受けながら一ノ瀬君に聞いた。







『それで何を話すの?』






「…でした。」






『え?』






とても小さくて聞き取れなかった声に
反応した。






「ずっと前から好きでした。」






『…っそれって告白…?』







明らかに顔が赤くなっている私は
一ノ瀬君に問いかけた。

「そうです。俺、今まで橋田と倉島さんが
付き合ってたの知ってたから告れませんでしたが
ずっと好きでした。」








「俺だったら橋田みたいに嫌な思いはさせないし
絶対幸せにする。だから俺と…」






『…』







私はその言葉を聞いて本気だと感じた。
もう、橋田なんて…と思う自分もどこかにいる。







『私は「ちょっと待って。」…っ………』







突然遮られた聞き覚えのある声。
振り返ると…







『………橋田君…』







少し息を切らして肩を揺らす橋田の姿。