「ふぁ〜」


私がまばたきも忘れて、七海遥の存在に釘付けになっていたそのとき。


「でけぇあくび…。もうちょっとしっかり目覚まして来いよ、郁」

「だって眠いし。無理やり遥が起こすから仕方なく来ただけでしょ」


七海の後から教室に入ってきた美青年。

色白でまつ毛が長くて中性的な顔立ち。


「七海遥に、郁……大槻郁磨(おおつき いくま)……」

「え…」


私が無意識のうちに呟いたその声に、驚いた様子の咲ちゃんが反応する。

そしてもちろん、その声はその2人にも届いていて。


私の声を聞いてこちら側へ振り向いた2人は、お互い無表情のまましっかりと私のことを視界に捉えて見てる。


「……。郁、知ってる?」

「さあ。知らない」


……が、彼らは一言だけそう交わしただけで、すぐに黒板の座席表に意識を移し、もう私のことなんて微塵も触れることなく何やら話してる。


私を、知らない……?

彼らの発した言葉が、頭の中をぐるぐると駆け回って繰り返す。


ああ、そう。

そういうことなのね。