「むかつくんだよ、お前」


その教室のドアの陰に、別の2人の生徒が見えた。

いつもこの男と一緒にいるクラスメイトと、隣のクラスの生徒のようだった。


そうか。この後さらに私のことを3人で馬鹿にしながら帰るんだ。

私のいないところで悪口言って、ひどいことを言って笑うんだ。


私はもう涙で腫れた目を隠すことなく、これまでないくらいに、強く鋭く、生まれて初めてその男を恨むように睨みつけた。



「んだよ、その目」

「……」

「生意気。お前なんか……」


アイツは右手を空に掲げて、手のひらに力を込めた。


ぶ、ぶたれる……っ!



そのまま振り下ろされた手に、私がぎゅっと目を瞑ったそのとき。



「……っんっ」


ヤツの手は私を殴ることなく、私の腕をぎゅっと引っ張り、そのままアイツは私を自分のほうに引き寄せて、そして……。



「ははっ。

ばーーーーーか!!」



ヤツは教室のドアにもたれかかっていた友達に「帰ろうぜ」そう声をかけて、私を置いて教室から去って行った。


呆然とその場に膝をつく私は、何が起こったのかまだいまいち理解できてなくて。



……私、あの男に、


キス、された……?