『君と軸』
ビルの隙間に星は無い
湿気た風の吹く街で
蠢く赤は遠く連なる
平面
立体
僕らを囲む有象無象が
何処かの回路に繋がって
眠りに着く夜は何次元
触れられる
染められる
君に背中を押してもらえる
そんな願いも虚しくて
僕は中空
宙ぶらりん
群衆
喧騒
石の冷たさ
朝の匂いと烏の集い
口に出したらやけにリアルで
それでも少し無理してて
触れられる
溶け合える
君に終わりを決めてもらえる
そんな救いを軸にして
蠢く赤は
近く交わる
『遠雷』
ごうごうと風が吹き
何処か遠くで声がする
光る兆しも無い星に
願う言葉は在りもせず
ただ朝を待つには長すぎる
そう溢したくなる春の夜に
君は努々忘れじと
僕は徒然
夢うつつ
いつも何処かで聴いている
終わりの音は雨に似て
嘯くばかりの唇と
睫毛のかかる伏した眼と
愚かな僕は仮面を被る
隠せるはずも無いくせに
『火傷』
透過する光
窓ガラス越しに
垣間見えたいつかの面影
壁を建てて
屋根をつけて全方位
囲ったところで距離は同じで
配線だらけの頭の中を
掻き分けて潜るように
深く深く逃避する
焦点はどこだろう
熱くなって
自棄になって
辿り着いた非現実
ここなら僕も生きていられる
そう思えたのは幻想で
ボタンひとつで壊したくなった
呆気無いな
味気無いな
所詮こんなものなのかって
火傷した指を咬みながら
『色』
混ざり合ってる人の群れ
色とりどりの路線図と
散りばめられた
糸と意図
君に出逢えて良かったと
去ってくあなたは言ったけど
私一人の役割なんて
路傍の石と大差無い
車窓に映るネオンと雨粒
煙草の匂いと赤い唇
眩しく見えたあの人のように
欠片で良いから成れたなら
なんて
そんな淡い羨望も
願ったことさえ忘れるほどの
ほんの一時で諦めて
私はまだ此所に居る
十人十色が真理なら
百人百色か
それ以上
遺せるものは
きっと多くは無いでしょう
成し得ることは在るかしら
適材適所と言うやつを
飲み込んだふりして掃き捨てる
君に出逢えて良かったと
去ってくあなたが言ったから
『水玉』
満たされた水面を叩いて遊ぶ
閉じかけの窓からこぼれ落ちる
ドロリとした液体は
私の顔を汚して溶けた
風が撫でるように
止まらないように
触れたかどうかも分からないくらいに
そっとそうっと生きている
誰も傷付けたく無いからと
誰にも傷付けられたくないからと
毒にも薬にもならないで
きっと私は
誰にとっても知人A
闇雲に愛されたいとは思わない
好きでも嫌いでもないと言われたい
丸く小さく
けど固く
柔らかいものは歪に形を変えてしまうから
いつか決壊してしまう
たとえそんな末路でも
貴方が悪い訳じゃない
内側に向かってるトゲのせい
どこか冷たい水のせい
『フェンス』
こんな物
思い切って押してしまえば
あっという間に倒れてしまう
僕にはそれだけの力が有って
実行するのは容易いことで
それなのに何が僕を止めるのかって
いつも不思議に思ってた
世間は欺瞞に溢れてるって
斜に構えて生きてると
みんなつまらなく見えてくる
筆一本で影が引けるように
陽のあたる場所なんて
目まぐるしく
気まぐれに変わってくから
気張らず
ゆったり
それでも真っ直ぐ
自分の足元だけは見ていよう
"遠い目をした人"がどんなかなんて
これっぽっちも分からなかった
宙ぶらりんの虚しさを
想像さえもしなかった
フェンスの前に立ってた僕も
きっと同じ目をしてたんだろう
君が僕を見るまでは
そんなことにも気付かなかった
向こう側へはたった一歩
それでも僕がここに居るのは
期待とか希望とか
捨てがたいものがまだあるってことで
押してしまえば
全部無くなってしまうんだ
『奇々怪々』
嘘だらけの怪奇
暴き立てて
まるで憂さを晴らすようにして
追い求めてたのは
全てを覆すような本物
けれど駆け回って手にした現実は
どれも味気無い偽物で
僕は何時だって虚しさだけを抱えて帰る
独りで待ってる薄い背中に
何も言えずにただ笑う
世界は怪奇に溢れてて
奇妙なことなどありふれて
悩むなんて馬鹿げてる
あんたなんてまだまだだ
って言ってやりたい
君は本物
だけど
何処にでもいる女の子
僕が誰より知っているから
その手を取って言ってやりたい
からかうように言ってやりたい
世界は怪奇に溢れてて
奇妙なことなどありふれて
悩むなんて馬鹿げてるって
君を外へと連れ出す為に
『排煙』
いつも何処か焦げ臭い
山の向こうに煙が見えて
いつの間にやら溶けていく
爪で付けた印ちりちりと
内側で燃ゆるゆらゆらと
歩くより走るより
泳ぐように君を探した
溺れそうに君を探した
雨が近い
濡れた空気に肌が粟立つ
消すには早いよ
まだもう少しだけ待ってくれ
鮮やかな光
煌々と
対比のような僕の日常
流れ出る煙は止め処なく
冷たく肺を染めていく
今吸い込んだ空気にも
欠片になった君がいる
僕はとっくに気付いてたんだ
ただ飲み込めずにいるだけで
僕は最初から解ってた
いつも何処か焦げ臭い
記憶の中に君がいること
『馬鹿』
胸を切り開いて取り出して
暴き出したものに名前をつけた
滞ってた水の流れが
まるで思い出したように速くなる
暗く淀んだ河のように
何もかも飲み込んで何年も
忘れ去られた日を僕だけが抱えてた
一人だけ馬鹿みたい
みたいじゃなくて僕は馬鹿だ
深く抉って僕を遺す
そんな方法しか知らなくて
君を傷付けてやりたくなった
変われなきゃ繰り返す
変われないから繰り返す
こんな自分が恐ろしいから
また飲み込んで
暗く淀んだ河の中
一人だけ馬鹿みたい
それでも僕は傷付けないから
馬鹿な自分が嫌いじゃないよ
馬鹿なだけなら嫌いじゃないよ
傷が付くのは僕だけだ