『水玉』
満たされた水面を叩いて遊ぶ
閉じかけの窓からこぼれ落ちる
ドロリとした液体は
私の顔を汚して溶けた
風が撫でるように
止まらないように
触れたかどうかも分からないくらいに
そっとそうっと生きている
誰も傷付けたく無いからと
誰にも傷付けられたくないからと
毒にも薬にもならないで
きっと私は
誰にとっても知人A
闇雲に愛されたいとは思わない
好きでも嫌いでもないと言われたい
丸く小さく
けど固く
柔らかいものは歪に形を変えてしまうから
いつか決壊してしまう
たとえそんな末路でも
貴方が悪い訳じゃない
内側に向かってるトゲのせい
どこか冷たい水のせい
『フェンス』
こんな物
思い切って押してしまえば
あっという間に倒れてしまう
僕にはそれだけの力が有って
実行するのは容易いことで
それなのに何が僕を止めるのかって
いつも不思議に思ってた
世間は欺瞞に溢れてるって
斜に構えて生きてると
みんなつまらなく見えてくる
筆一本で影が引けるように
陽のあたる場所なんて
目まぐるしく
気まぐれに変わってくから
気張らず
ゆったり
それでも真っ直ぐ
自分の足元だけは見ていよう
"遠い目をした人"がどんなかなんて
これっぽっちも分からなかった
宙ぶらりんの虚しさを
想像さえもしなかった
フェンスの前に立ってた僕も
きっと同じ目をしてたんだろう
君が僕を見るまでは
そんなことにも気付かなかった
向こう側へはたった一歩
それでも僕がここに居るのは
期待とか希望とか
捨てがたいものがまだあるってことで
押してしまえば
全部無くなってしまうんだ
『奇々怪々』
嘘だらけの怪奇
暴き立てて
まるで憂さを晴らすようにして
追い求めてたのは
全てを覆すような本物
けれど駆け回って手にした現実は
どれも味気無い偽物で
僕は何時だって虚しさだけを抱えて帰る
独りで待ってる薄い背中に
何も言えずにただ笑う
世界は怪奇に溢れてて
奇妙なことなどありふれて
悩むなんて馬鹿げてる
あんたなんてまだまだだ
って言ってやりたい
君は本物
だけど
何処にでもいる女の子
僕が誰より知っているから
その手を取って言ってやりたい
からかうように言ってやりたい
世界は怪奇に溢れてて
奇妙なことなどありふれて
悩むなんて馬鹿げてるって
君を外へと連れ出す為に
『排煙』
いつも何処か焦げ臭い
山の向こうに煙が見えて
いつの間にやら溶けていく
爪で付けた印ちりちりと
内側で燃ゆるゆらゆらと
歩くより走るより
泳ぐように君を探した
溺れそうに君を探した
雨が近い
濡れた空気に肌が粟立つ
消すには早いよ
まだもう少しだけ待ってくれ
鮮やかな光
煌々と
対比のような僕の日常
流れ出る煙は止め処なく
冷たく肺を染めていく
今吸い込んだ空気にも
欠片になった君がいる
僕はとっくに気付いてたんだ
ただ飲み込めずにいるだけで
僕は最初から解ってた
いつも何処か焦げ臭い
記憶の中に君がいること
『馬鹿』
胸を切り開いて取り出して
暴き出したものに名前をつけた
滞ってた水の流れが
まるで思い出したように速くなる
暗く淀んだ河のように
何もかも飲み込んで何年も
忘れ去られた日を僕だけが抱えてた
一人だけ馬鹿みたい
みたいじゃなくて僕は馬鹿だ
深く抉って僕を遺す
そんな方法しか知らなくて
君を傷付けてやりたくなった
変われなきゃ繰り返す
変われないから繰り返す
こんな自分が恐ろしいから
また飲み込んで
暗く淀んだ河の中
一人だけ馬鹿みたい
それでも僕は傷付けないから
馬鹿な自分が嫌いじゃないよ
馬鹿なだけなら嫌いじゃないよ
傷が付くのは僕だけだ
『また明日』
見たくない
知りたくない
触れられたら最後
発狂しそう
そんなこと言ったって君は来るんだけど
僕は往生際が悪いから
ギリギリまで拒絶して
何度も今日を後悔してた
始めから空っぽになって諦めて
ただ通り過ぎるのを待つだけで良い
そう分かってるのに繰り返してた
君の吐息と手の熱が
肌を這って黒く煮詰まる
顎を伝って僕まで濡らす
夕焼け色を背景にして
メトロノームがひとつ
頭の周りで回ってる
呼吸する度加速して
張り付いたように消えてくれない
隙間を繋ぐように雫が一滴
燃えるように揺らいでる
僕にはもう後がない
終わりのサイレンが鳴ったって
僕らにはもう意味が無い
さようなら
さようなら
君だけが言える別れの合図
それだけが救いだったけれど
そんなこと言ったって君は来る
さようなら
さようなら
分かってるけど繰り返すんだ