「あら、そう……」

 梨夏さんは首を傾げた。


 話題を変えようと、俺は持ってきた花を梨夏さんに渡した。

「うわ―っ。私の好きな花よ。高いのにありがとう」


「いいえ。それより、早く良くなって下さいよ」

 俺にとっては、何気ない当たり前の言葉を発したつもりだったのに……

 梨夏さんは、何かを考えるかのように花束を見つめた。


「うん……そうね…… ねえ、海里くん、私のお願い聞いてくれる?」

 梨夏さんは、見つめていた花束から、俺の方へと視線を変えた。


「勿論いいですけど、急になんですか?」

 俺は、横にあった椅子に腰を下ろした。



「あのね…… 私、もうそんなに長くは生きられないらしいの……」

 梨夏さんは、世間話でもするとように、穏やかな口調のまま言った。


「えっ?」

 この人は、いったい何を言い出すんだと突っ込みたくなった。


「今度、発作が来たら多分ダメだろうって……」


「何言ってるんですか? 冗談はやめて下さいよ」

 俺は、笑って言った。
 冗談であって欲しいから……


「冗談ならいいんだけどね……」

 梨夏さんは力無くほほ笑んだ。