それから半年程が過ぎ、梨夏さんが入院した。見舞いはいいと言われていたが、やはり気になり、俺は花束を抱えて病院へ向かった。


 病室へ向かう途中、談話室におやじさんの姿を見つけた。声を掛けようと向きを変えた俺の足が止まった。

 おやじさんは、頭を両手で抱えていた。
 泣いていたのだ……


 俺は、声をかける事が出来ず、その場から静かに離れた。
 見なければ良かった……


 俺は病室のドアの前で大きく息を吸うと、おやじさんの姿を吹っ切るようにアをノックした。


「はい」

 梨夏さんの元気そうな声が返ってきて、胸がほっと息をついたのが分かった。


 ドアを開けると、ベッドの上に起き上がって本を読む梨夏さんの姿があった。

「あら。海里くん来てくれたの」

 嬉しそうにいつもの笑顔を見せた梨夏さんに、さっきの見たのは何かの間違いだと思った。 きっと、おやじさんも疲れているんだ……


「元気そうで良かった」

 俺は、心の底からそう思った。


「そうなのよ、退屈で。さっきまで、パパが居たんだけどすれ違わなかった?」

「いいえ」

 俺は、咄嗟に嘘を付いてしまった。