長期出張が続き、珍しく平日の休みが取れた。どんな仕事の大変さも、この店があると思えば、俺は何でも乗り越える事が出来た。

店の前に車を停めると、丁度、おやじさんが帰ってきた所だった。おやじさんの車には、梨夏さんも乗っている。別に珍しい事でもないのだが店のドアが開き、美夜さんが飛び出してきた。


 助手席を開け、美夜さんが抱えるように梨夏さんに手をさしのべた。

 おやじさんも急いで降りてきて、梨夏さんを抱えた。

 俺もいつもと違う様子に、慌てて車から降り梨夏さんの元へ向かった。


「どうしたんですか?」

「梨夏さん倒れたのよ」

「ええ!」

 俺は、驚きのあまり声が上ずってしまった。

「いいから、後ろから荷物下ろして!」

 美夜さんの言葉に、俺はバタバタと後ろのドアを開け荷物を抱えた。


「海里くん……」

 梨夏さんの、聞いた事もない力ない声に俺の声も震えた。


「はい……」


「お願い…… このことは、奏海に言わないで…… 休めばすぐ良くなるから……」


「え、ええ……」

 肯いたものの、俺の中に納得できないものが広がった。

 すぐ良くなるなら、奏海に言ってもいいだろう? 
 なぜ、奏海に話さないんだ…… 
 何だか、考えたくない嫌が予感が黒い色で渦巻き始めた。


 その頃からだろうか、夜店を開けない事が多くなり、昼間は美夜さんが一人でやる事もあった。

 多分、その理由を奏海は知らない……